小児脳腫瘍とは(専門的に)

小児脳腫瘍の診断

症状には、腫瘍が発生した部位の脳機能低下による症状(局所神経症状)と
腫瘍が固い頭蓋骨に囲まれた脳を圧迫し、
脳全体の機能低下に至る頭蓋内圧亢進症状に分けられる。
前者は神経伝導路の障害(運動麻痺、言語障害、記憶障害、計算力低下など)、
脳神経麻痺(眼球運動障害、顔面神経麻痺など)、
小脳失調、眼症状、けいれん発作、突然の意識障害、などである。

増大した腫瘍とそれによる周囲脳組織の腫脹(浮腫)がある容積を越えると、
固い頭蓋骨で囲まれた領域内は窮屈となり、
正常脳組織は圧迫され種々の症状(頭蓋内圧亢進症状)を示す。
その第一段階は頭痛と嘔吐であり、
進行すると発生部全体(大脳半球、小脳半球など)が腫脹して
高度の頭蓋内圧亢進(意識障害)へ進展し、
生命中枢の脳幹機能が低下し呼吸停止へ至る。

上記の神経症状より脳腫瘍を疑えばMRIを行う。
MRIがすぐに撮れない場合はとりあえずCTを行い、
脳室拡大や造影される異常影を観察する。

治療

小児脳腫瘍の標準治療は一部の腫瘍(髄芽腫、胚細胞腫など)を除いて確立していない。
その理由は、組織型の異なる腫瘍が多く発生するが、各々の腫瘍型の数が多くなく、
十分な統計処理が可能な臨床試験を組むことができていないためである。

小児悪性脳腫瘍の治療原則は成人腫瘍と同様であり、



[1]: 手術にて可能な限り(神経症状を悪化させない範囲)多量摘出する。

年齢を問わずほとんど全ての悪性腫瘍で、
摘出量が多いほど生存期間は延長するため、
特殊な状況(脳幹神経膠腫、胚細胞腫瘍の一部など)を除いて
手術をせずに治療する方法は一般的ではない。


[2] 術後放射線治療を行わずに治療できる悪性脳腫瘍は少ない。

3歳未満児の過去の照射例では、
放射線により脳組織の成熟が阻害され知能低下(特殊学級)が生じたため、
現在この年齢層の腫瘍には放射線治療を行わず
化学療法で治療する方法が主流である。

しかし治療成績は過去の放射線治療照射例より劣る。
脳機能の保持か、治癒率の向上か、
相反する選択に苦慮しなければならない。

放射線治療は腫瘍が浸潤していると考えられる範囲に
最大60Gy照射する(患児年齢により線量は若干異なる)。
小児の悪性腫瘍の一部(髄芽腫や胚細胞腫の高度悪性群)では、
中枢神経(脳と脊髄)全域に照射する。


[3] 化学療法は放射線治療と併用し、相乗効果を期待する。

放射線治療終了後(退院後)も定期的に化学療法を行う方が
生存期間は延長すると考えられているが、
エビデンスとして確立しているものは限られている。

ここ数年大量化学療法のみで、あるいは大量化学療法を行うことにより
放射線治療容積や線量を大幅に減じる試みが行われている。
発達途上の幼児脳への放射線障害を避ける目的であるが、
まだ確立された治療とはいえない。

(松谷雅生 講義資料より抜粋)
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